大水深開発部門の沈滞 −− 一過性の問題か長期的な成長の鈍化か? ジム・マッコール、氏家純子

November 15, 2015

IMA/World Energy Reports は大水深開発部門の最新の 5 カ年予測を発表しました。1996 年以来 IMA が毎年行っている市場予測の第 19 号となる本レポートでは 2016−2020 年の浮体式生産システムの発注数を予測しています。最新版レポートの分析結果と結論を以下に概説します。

概論

我々は市況低迷とペトロブラスの凋落を一過性のものと見ている。市場の見通しは明らかに昨年よりも思わしくないが、浮体式生産システムを必要とする多数の大水深開発プロジェクトが計画されており、これらの案件に対する投資決定を下支えする長期的なフ ァンダメンタルスは依然として非常に堅調である。

しかし今後 12〜24 ヶ月に油・ガス田操業主体と大水深開発サプライチェーンにおけるコントラクターの回復力が試されることになるだろう。

現状

40 年間にわたり急成長を遂げていた大水深開発部門が突然足を取られた。2015 年には浮体式生産システムの発注はほとんどなく、今年 1 月以来 FPSO の発注は 2 基にとどまっている。それ以前の 10 年間には年間 12 基を超える発注があった。

発注数の沈滞は全般的な業況の悪化を反映している。サプライチェーンのほとんどの企業が軟調な景況に脅威を感じている。資本支出額はカットされ、大水深開発プロジェクトの開始が先送りされている。毎日のように人員削減が発表され、リグ契約がキャンセ ルになり、契約が再交渉され、資産は帳簿から抹消されている。

何が起こったのか?

沈滞の背景にあるのはシェール/タイトオイルの台頭によりもたらされた石油需給の不均衡と世界の主要産油国が協調的減産を見送ったことである。市場は大幅な石油供給過 剰状態にある。その結果、ここ 1 年間にわたり石油価格が暴落し、資金繰りが厳しくなり、石油会社は資金を保全するために資本支出を削減せざるをえなくなっている。

ペトロブラスの凋落がこれに追い打ちをかけている。大水深開発部門の立役者であったペトロブラスは汚職スキャンダルにより市場の表舞台からほとんど姿を消した。今後 5 年間に発注を予測されていた FPSO の 3 分の 1 以上がペトロブラス向けとなるはずだった。しかし、同社の財政難により、生産開始を計画されていたプロジェクトが大幅に縮

小された。2014 年にペトロブラスは 2018〜2020 年の生産開始案件向けに新たに 13 基の FPSO の調達を予定していた。現在調達が予定されているのは 5 基であり、これだけ基数を減らしても、同社の資金調達能力には疑問がある。

回復の見込みは?

もちろん「イエス」である。大水深開発部門がいずれ回復することは間違いない。世界 の石油需要は成長を継続しており、枯渇する既存の供給源に取って代わる新たな石油供給源を見いだす必要があることが大水深開発にとって追い風となることが期待される。

過去 20 年間に世界の石油需要は平均して年間 1.4%で成長している。この時期に、世界財政危機が発生した 2 年間を除いて、石油需要は毎年対前年比で増加した。

将来の需要成長率についての業界アナリストの見方は様々であるが、成長が継続すると いう見方では一致している。例えば、IEA(国際エネルギー機関)は 2040 年の世界の石油需要が 104mb/d に拡大すると予測している。この数字は現在の消費量の 10mb/d 増である。EIA(米国エネルギー情報局)は世界の石油/液体燃料消費量が 2040 年までに

119mb/d に成長すると予測している。これは現在の消費量 30%増近くに相当する。

OPEC は 2040 年に石油需要は 111mb/d に拡大すると予測している。これは 2015 年の世界の石油消費量の 18%増となる。

メジャー石油会社のうち、エクソンモービルは 2025 年まで石油需要の平均成長率を

1.2 %、その後 2025〜2040 年に 0.5%で成長すると予測している。BP は 2035 年まで年間平均 0.8%で世界の石油需要が成長すると見ている。

このような需要増に対処するためには、新たな石油供給源が必要とされる。加えて、既存油田の枯渇による生産中止にともなって失われる供給量を埋め合わせる必要がある。 大水深は新しい供給源の一つである。

回復を駆り立てるものは何か?

我々が追跡している浮体式生産システムを開発に必要とする可能性のある計画段階のオフショア石油・ガスプロジェクトは 240 件を超える。これらの案件のうちには複数の浮体式生産システムを必要とするものもある。もし、すべての案件が開発段階に進めば、今後 10〜15 年間にわたり最大 275 基の新たな浮体式生産システムが必要となる。

浮体式生産システムを必要とする著しい数のプロジェクトが待機しているが、これは浮体式生産システム発注数を予測するうえで全体像の中の小さな要素にすぎない。これら の大水深開発プロジェクト機会が浮体式生産システムの契約として実現するためには、まず投資決定が必要である。

我々の予測レポートでは、将来の大水深開発プロジェクトの投資決定のタイミングと方向性に影響を与える 11 の基調的市場要因を考察した。現時点で我々は 11 の基調的要因を次のように見ている。

ポジティブな要因

· 石油・ガスの需要は引き続き成長している

· 供給停止の危険性があり、新たな供給源の発見への関心が継続している

· 長期的石油/ガス価格は需給原理により上昇するであろう

ネガティブな市場要因

· 短期的な石油・ガス価格は投資を控える水準に下落している

· 大手エネルギー会社は資本支出を縮小している

· 石油・ガス市場に入る供給量が突然増加した

· シェール/タイトオイル・ガスプロジェクトが投資資金を奪い合っている

· サプライチェーンにおける現地調達の制約が遅延や予算超過を引き起こしている。

· 大型顧客であるペトロブラスが深刻な財政問題を抱えている

· 今後数年間に大水深プロジェクト向け資本コストは上昇すると見込まれる

未知の要因

· 予期せぬ出来事がこのセクターを混乱させる可能性がある(過去にもその例があった。)

今後数年間にこれらの市場要因が相互作用することにより、浮体式生産システムの発注数とタイミングが決まってくる。

回復のシナリオ

今後 5 年間に現実化すると考えられる基調的市場要因の現実的な範囲を取り入れた 3 つの予測シナリオを考察した。

· 下方シナリオ – 世界の経済成長は低迷、エネルギー需要の成長は鈍化、シェールオイルとの苛烈な競争、原油価格は 2020 年まで 50〜60 ドルで推移、現地調達政策が大水深開発コストを押し上げ、ペトロブラスの問題は

2017 年以降にももつれ込む。

· 上方シナリオ – 堅調な経済成長、エネルギー需要成長の加速、原油価格は 2020 年まで 70〜80 ドルで推移、制約によりシェール開発が制限される。現地調達政策は緩和され大水深プロジェクトのコスト押上げ圧力が軽減、 ペトロブラスは 2016 年上半期に投資グレードの格付けを回復。

· 最も可能性の高いシナリオ – 適度ではあるが持続可能な景気回復、エネルギー需要成長率 1.5%、原油価格は 2020 年まで 60〜70 ドルで推移。シェールオイルの成長は北米に限定される、大水深コスト上昇は減速し、ペ トロブラスの信用格付けは 2017 年いっぱい投資不適格のまま。

主要な投資決定の根拠となる長期的な石油価格については、すべてのシナリオにおいて

EIA による原油価格予測の範囲内となっている。EIA は長期的原油価格を 2020 年代末に 1 バレル当たり 70〜170 ドル、2030 年代末に 80〜200+ドルと予測している。

発注予測

最も可能性の高いシナリオでは、今後 5 年間に 64 基の石油/ガス生産ユニット(FPSO、生産セミサブ、スパー、TLP)、29 基の LNG 処理ユニット(FLNG、FSRU)、25 基の 貯蔵/積出ユニット(FSO)が発注されると予測される。建造及び改造契約に関連した 資本支出は 1,060 億ドル前後となる。最新版レポートでは発注を予測されるユニットの規模、地域、発注年、船体新造/改造別の内訳を示した。

上方シナリオでは予測される発注数は大幅に多く、石油/ガス浮体式生産ユニット 77 基、

LNG 処理ユニット 36 基、貯蔵/積出しユニット 30 基である。下方シナリオでは発注数

は石油/ガス浮体式生産ユニット 45 基、LNG 処理ユニット 22 基、貯蔵/積出ユニット 20

基である。

2016/20 予測は昨年の 5 カ年予測よりも大幅に下方修正されている。1 年前の予測では石油/ガス生産ユニット 98 基、LNG 処理ユニット 25 基、貯蔵/積出ユニット 30 基の発注が予測されていた。

浮体式生産システム予測の詳細は弊社の最新の全 186 ページのレポートを参照下さい。最新レポートの目次、図表リストは https://www.worldenergyreports.com/reports/でご覧いただけます。

2017年8月号

2017年8月号

WERレポート8月号で論じるように、世界の原油在庫が縮小するに従って原油価格は50ドル台前半に回復した。石油需要増と供給カットにより2016年後半から2017年初めにかけて積み上がった余剰原油在庫は調整され、目先の原油価格を下支えしている。一方、FPSOコントラクター2社がFPSO市場の将来を有望視していることを示唆する動きがあった。1社は投機的にFPSO浮体を発注し、さらに1社は油田操業主体となることにより再配備可能だったFPSOの投入先を確保した。レポートではこれら2つの競争ポジショニング戦略について考察する。いずれも市場回復への自信が強まっていることと、FPSO契約を確保するために経営陣がリスクをいとわないことを裏付けている。さらに、レポートでは最近のBOEM鉱区リース権入札の結果をまとめる。これはメキシコ湾における大水深開発に関心が戻っていることを示している。レポートのデータセクションでは計画段階にある浮体式生産システム203案件、発注済み浮体式生産/貯蔵システム49基、稼働中の浮体式生産ユニット293基、再配備に利用可能な浮体式生産システム29基についての詳細を示した。レポートには浮体式生産・貯蔵システム採用が計画されている場所

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